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  • 2016/03/07(月)
  • 農業を志す方々へ ― Farmめぐる 代表 吉田 典生さん―

 

 

大切なのは段取りと事前準備

Farmめぐる 代表 吉田 典生さん

 

 

標高およそ700m。

周囲の山々の積雪と山肌とのコントラストがキレイに見える2月下旬、長野県佐久市にあるFarmめぐるに伺い、代表の吉田典生さんにお話を伺ってきました。

 

【写真:Farmめぐる 代表 吉田典生さん】

 

吉田さんは京都の立命館大学を卒業後、約10年間国家公務員として勤務され、2010年に農業へ転身。2年間の研修を経て2012年に長野県佐久市で独立し、有機無農薬でほうれん草やズッキーニ、インゲンなどの生産、販売をおこなっていらっしゃいます。

 

まず目に入ってきたのが、建設中の事務所。

Q.木目調の素敵な建屋ですね

A.まだ完成していませんが、実はこれ手作りなんです。近くのホームセンターで木材を買ってきたりして少しずつ作業をおこなっています。昨年は隣にある従業員用の宿舎をリノベーションしました。

 

【写真:手作りの事務所】

 

. 手作りなんてすごいですね。農業というと、農作業や出荷作業などに追われて時間があまりないようなイメージがありますが・・

A.長野県はご覧のとおり冬の間は雪も降りますし、寒くて農業には厳しい環境です。だから春から冬になるまで目一杯仕事をして、冬の間は比較的のんびり過ごしているんです。

1月は事務仕事、そして2月は家づくりって感じで。今年は比較的暖冬なので、動き出しも早くしなきゃいけないので、今急ピッチで作っています。僕にとっては家を作っているときが1年で1番楽しいときですね(笑)

. 夏と冬とのメリハリがあって、好きなことに時間を費やせる時間があるなんて贅沢ですね。ところで、吉田さんはどういったきっかけで農業を始められたのですか?

A.きっかけは学生のときに夏休みに2ヶ月間長野県の川上村でレタスの収穫作業のアルバイトをやったことですね。今でも毎年春から秋にかけてたくさんのアルバイトさんが川上村で農作業アルバイトをされていると思いますが、当時もアルバイトの募集があって、稼げると思って行ってみたんです。

Q.それがきっかけということは、楽しかったんですね?

A.仕事はとにかくキツくて、ツラくて大変でした(笑)。でも、1日体を動かして、汗いっぱい流して、作業が終わった後にアルバイト仲間たちと小川のヘリを歩いてアイスを買いに行くのがなんか楽しくて。充実感に溢れていましたし、清々しかったんですよね。

自分たちが頑張って収穫した野菜がどこかの食卓に上っているんだと思うと嬉しい気持ちになりました。山々に囲まれた雄大な景色も含めて、とてもいい思い出になりました。

 

 

 

Q.なるほど。それで、大学卒業後はどうされたのですか?

A.国家公務員になりました。結局は安定した仕事に就いて、しばらくは農業のことはすっかり忘れて無我夢中に働きました。仕事はかなりハードで、2年に1回は転勤もあって、引越も何度も経験しましたね。働き始めて3年くらいしてから、少し余裕ができ始めて、休暇を使ってちょこちょこと農業体験に行くようになったんです。学生時代の農業アルバイトの思い出が頭にあって、だんだんと気持ちが農業に向いていったんですね。やっぱり農業はいいな、と。国家公務員の仕事は10年やったら辞めようと心に決めたのもこの頃です。そして、2010年に仕事を辞めて、東京の調布市にある農家さんのところに研修に行きました。

Q.国家公務員なんて安定した仕事をよく辞める決断ができましたね?

A.かなりハードでしたし、悔いはありません。農業はモノを作る仕事ですが、モノを作るってとても楽しいんですよ。自分は思ったことを言っちゃうタイプなので、サラリーマンには向いていないっていうのもあります(笑)。新規で農業をやるってことは、自分で考えたことをすぐに形にできるっていうところも魅力です。でも、今思えば、10年間の経験は今でも生かされていますし、就職してよかったなと思っています。

Q.どうして長野のこの場所で独立をされたんですか?

A.長野っていうことは最初から決めていました。学生時代の思い出があったからですね。それで調布の農家さんで研修をした後に、長野県がやっている新規就農里親制度を利用して、ここの近くの農家さんで1年間研修をさせていただきました。その農家さんが有機栽培で野菜づくりをしていたこともあり、今私も有機で野菜づくりをやっています。

もともと独立を考えていましたので、研修の間知り合う人、知り合う人に「土地を貸してください」って言い続けていたんです。そうしたら、縁あってすぐに1町歩の土地が集まりました。それが今の農園の始まりです。

Q.いざ新規就農されてみて最初からスムーズにいきましたか?

A.いや、大変なこともたくさんありました。アブラムシで作物が全滅したり、大雪でハウスが潰れたり・・自然相手に自分の力なんてちっぽけだなと痛感しましたね。

でも、初めからパートさんを雇って経営をしていましたので、「給料を払わなきゃ」という思いが自分を奮い立たせました。1人だったらめげてしまっていたかもしれません(笑)

 

【写真:Farmめぐるのメンバー】

 

Q.今はどのようなところに野菜を出荷されているのですか?

A.大手の宅配会社や地元のスーパー、飲食店等との契約出荷が中心です。インゲンは地元のスーパーから高い評価もいただいています。現在は約5町歩の面積で野菜をつくっていますが、今後、もっと広げていけたらいいなと考えています。

Q.吉田さんは今どのような想いで農業と向き合っていらっしゃるんですか?

A.1つはおいしい野菜をつくって食卓に届けることで、食卓を囲む人たちの会話が生まれ、絆が深くなる、そんな人の環(わ)をつくっていけたらいいなと思っています。そして、農業をやることでお世話になっている地域の環境を守っていく、人を雇用して地域に還元していく、そんなことができたらいいなという想いを込めて、『Farmめぐる』という名前を付けました。

Q.ありがとうございます。最後に、これから農業をやろうとしている方々へのメッセージをお願いします。

A.先程もお話をしましたが、私自身は農業をとても楽しい仕事だと思っています。モノをつくることが面白いですし、自然の中で自分らしく働けることも楽しいです。そして、家と畑と出荷場とが5分位の距離なので、通勤などのストレスもありません。自分が考えたことをすぐに形にできるということも私にとってはとても魅力です。

でも、結果は当然自己責任です。

農業に限ったことではないかもしれませんが、大切なのは段取りと事前準備をしっかりとすることです。種まきから収穫、出荷まで年間の計画をしっかりと立て、日々の作業に落とし込んでいく、これができるかどうかで結果は大きく変わります。

そういう意味では、段取りがしっかりとできる人が新規就農に向いていると言えるかもしれません。

中には段取りが苦手な人もいると思います。そういう方は、無理に独立をしなくても雇用就農という方法で農業に携わっていけばいいのではないかなと思います。

あと、独立するには、やっぱり元手となる資金があった方がいいと思います。最初から必要なものは揃えた方がスムーズにできますからね。

そして、私自身がそうであったように、農業はいろいろな人に支えられてできるものです。私自身、始めるにあたってたくさんの方々のお力をお借りしました。今でも農業者同士の集まりにもよく参加して、たくさんのアドバイスや刺激をもらっています。

ぜひこれまでに出会ってこられた方々、これから会うであろう方々とのご縁を大切に、農業にチャレンジしてみてほしいですね。

 

 

【取材を終えて】

安定した職に就いていながら、学生時代の記憶が脳裏にあり、農業へと気持ちが傾いていったという吉田さん。「もう一度人生をやり直せるとしたら農業をやりますか?」という質問に、「やります!公務員にはなっていないかもしれませんけど」と、力強く、そして笑顔で答えてくれ、いかに充実した日々を送っていらっしゃるかが伝わってきました。生まれ育った土地というわけではありませんが、今の環境に感謝し、地域への想いを熱く語ってくださったのもとても印象的でした。近々法人化も目指されているとのこと。会社がさらに成長し、完成した事務所にたくさんのスタッフが座っている様子をまた見に行けることを楽しみにしています。

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