- 2012/07/31(火)
- 農業を志す方々へ―株式会社サラダボウル 代表取締役 田中進さん―
「農業は自分のやりたいことをストレートに表現できる数少ない仕事」「農業はめちゃめちゃカッコいい仕事」
こう話すのは株式会社サラダボウルの代表、田中進さん。
10年間銀行や外資系保険会社に勤めた後、農業が持つ大きな可能性を感じ、農業界に入られた田中さんに、農業を始められたきっかけやこれから農業を始めようと思われている方々に向けたメッセージを伺ってきました。
【田中進さんプロフィール】
山梨県生まれ
大学卒業後、三菱UFJ銀行に5年、プルデンシャル生命保険に5年勤務。
2004年4月 農業生産法人・株式会社サラダボウル設立
2005年11月 NPO法人「農業の学校」を設立
【写真:サラダボウルのみなさん】
■小さい頃は農家の子供であることが恥ずかしかった
山梨県の農家の次男として生まれた田中さん。
小さいころから農家を目指していたわけではないそうです。
「小さい頃はむしろ農家の子供であることを恥ずかしいとさえ思っていました」
小さい頃、母親が軽トラックで授業参観に来るのがたまらなく恥ずかしかったそうです。学校で親の職業の話になることがいつも嫌だったとのこと。
親からも「農業なんかする時代じゃない」と言われて育った田中さんは大学を卒業後、いろいろな人と関わる仕事をしたいという想いから銀行に就職をしました。当時、農業に参入するなんて微塵も思っていなかったそうです。
そんな田中さんが農業を始めることとなったきっかけは何だったのでしょうか?
【写真:サラダボウル代表 田中 進さん】
■心の底から夢中になれるもの
大学卒業後銀行に入社した田中さんは、研修で様々な銀行の業務に関わった後、新規融資先の開拓プロジェクトに携わりました。
そこでは、融資先の開拓をするため、徹底的に融資先の企業のことや業界のこと、収益構造や決算書の構造などを調べ、分析し、その会社以上に会社のことを知り、問題点を洗い出す作業を繰り返したそうです。
その後、ヘッドハンティングされた外資系の保険会社で働き始めた田中さん。日々充実したビジネス生活を暮らしていた中、どこか違和感を感じるようになったそうです。
「子どもの頃接していた親や周りの農家の人たちはいつも心から笑っていました。銀行や保険会社で働いていて、一生懸命働いている人や必死で頑張っている人はたくさんいましたが、心から笑っている人や仕事に夢中になっている人には出会うことができなかったんです」
「無意識のうちに心から夢中になれるものを追い求めるようになっていたのだと思います」
農業は大変な仕事ですが、そこで働く人たちはいつも夢中で仕事をしているんだそうです。
農家で育った田中さんにとっては『心の底から夢中になること』がDNAに刻まれていたのかもしれません。
いつしか田中さんは今の仕事で夢中になって働けるのだろうかと自問自答をするようになっていました。
■農業がダメなのではない。何かやり方があるはず。
「農業って実はめちゃめちゃカッコいい仕事なのではないか」
その頃から田中さんは農業に対する考え方が少しずつ変わっていったそうです。
銀行や保険会社で多くの経験を積んだ田中さんは、その経験から、他業界のいいところややり方を農業で活かしたらどうなるんだろう、と考えるようになったそうです。
「どんな不況の業界でもピカピカに光っている会社はある。反対に景気のいい業界でも苦しんでいる会社もある」
「農業がダメなのではなく、与えられた環境の中でできる人とできない人がいるように、農業でもやり方によって大きく変わるんじゃないか」
そう考えた田中さんは農業には大きなビジネスチャンスがあると確信するようになっていったそうです。
【写真:毎朝行われる勉強会の様子】
■農業の新しいカタチを創りたい
農業を大きなビジネスチャンスと考えるようになった田中さんは農業生産法人 株式会社サラダボウルを立ち上げました。
会社勤めで出会ったベンチャー企業の経営者は、それぞれの業界で新しいカタチを創ろうと努力し、自分の想いを成し遂げていました。
それを羨ましいとどこか感じていたことと農業に対する思いが重なり、『農業で新しいカタチを創りたい』と決意するに至ったそうです。
「私たちは農業の『新しいカタチ』を創ろうとしていますが、その中で『農業で幸せに生きる』ということを大切にしています。農業を職業として楽しみ、そしてしっかり儲かる人を育てていきたいと思っています。」
【写真:キャベツ畑での勉強会の様子】
■農業ほど理由があって結果がわかるものはない
「農業というと経験と勘で仕事をしているイメージがあると思いますが、農業ほど理由があって結果が分かるものはないと思います」
農業は難しくて農家さんの経験とか勘が全てだと思っている方が結構いらっしゃるのではないでしょうか。しかしながら、畑で起こる現象には必ず原因があります。その原因となる要素が複雑に絡み合っていて難しいだけで、全ては論理的で科学的な根拠があるものなのだそうです。
人間の病気に原因があるように、畑で起こる現象にも理由があり、作物からそのサインを感じ取り、推測し、作物と会話しながら美味しいものを作るために処方していく、これが農業の面白さの一つといえるのではないでしょうか。
【写真:藤野 愛美さん】
■農業の魅力
「私たちが創りたいものはおいしい物を食べたあとに広がる幸せな食卓の風景です」
おいしい物には大きな力があって心を揺さぶる力があります。
田中さんはそういった思いを持って畑に種を蒔いているそうです。
おいしい物を食べた後の「笑顔」や「喜び」「感動」。こういった価値を創りだすことができるのが農業の魅力なのかもしれません。
【写真:ナスの収穫、安岡さん】
■お客様の望むものを作る
新規就農者の課題として作物の販路の開拓が挙げられるとよく聞きますが、田中さんはどうお考えなのでしょうか?
「農業は需要と供給がミスマッチ」
田中さんはこう話します。
「お客様は美味しくて安全なものを望んでいます。その消費者の需要と供給がマッチしていない。」
「例えば美容院に行って、自分はこの髪形が得意だからこの髪形しか切りませんではダメですよね。お客様の要望通りに切らなければいけない。農業も同じです。販路の開拓が難しいのではなくて要は望んでいるものを作れないのが問題なんです」
「しっかりと相手のニーズをくみ取って作れば売ることは難しくありません」
お客様が求めているものを作る。意外に農業はシンプルなのかもしれません。
【写真:店頭試食の様子、島田 望さん】
■農業を志す方へのメッセージ
農業は自分がやりたいことに夢中になれて、お客様から「ありがとう」と言ってもらえる、そんなシンプルでカッコいい仕事です。
農業にはすごく大きなビジネスチャンスがあり、自分のやりたいことをストレートに表現できる数少ない仕事だと思っています。
サラダボウルでは農業を志そうと思っている方にはまず1週間研修をしてもらっています。ありのままの農業の現場を体験してもらって自分が農業に向いているのかを見極める必要はあると思います。
もし農業の魅力にどっぷり浸かって農業に夢中になれたとしたらそんな幸せなことはないと思います。
夢中になれることは財産です。みなさんも農業で夢中になってみませんか?
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■田中さんの本■
「ぼくらは農業で幸せに生きる」河出書房新社
酪農業
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